商売の基本 2005 11 23
たとえば、ある人が、小料理の店を経営していたとします。
固定客と言える「なじみの客」が増え、
誰の目にも、商売が順調であるように見えました。
そこで、店の主人は、ここで、一気に、お店を大きくしたいと思いました。
雑誌や新聞のチラシなど、あらゆるところに広告を出したのです。
また、雑誌には、広告特集として、お店を記事で取り上げてもらったのです。
さて、ここで、大きな問題が発生すると思います。
そんなに広告を出したら、客が、大量に、お店に押し寄せるでしょう。
しかし、板前の人数やキッチンを増やしていなかったら、どうなるか。
料理の質が落ちるだけです。
ところで、事前に、板前の人数やキッチンを、十分増やしておくと、どうなるか。
それでは、売上高は伸びるでしょうが、利益が増えません。
人間には欲がありますので、
必要とされる「板前の人数やキッチン」より少なくして、利益を狙うでしょう。
グルメの人は、よく言います。
「あの店は、大きくしたら、おいしくなくなった」と。
最初は、みんなに、おいしいものを食べさせたいという目的で始めた「お店」が、
いつの間にか、金儲けが目的の「お店」になってしまった。
お店を始めた時は、みんなに好かれた板前だったのに、
いつの間にか「金の亡者」になってしまった。
こうしたことは、証券会社も同じでしょう。
一見客 one shot customer 2005 6
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京都には、「一見客、お断り」という店があるそうです。
一見客とは、初対面の客のことです(広辞苑)。
つまり、なじみの客しか、受け付けないということです。
こんな話を聞くと、多くの人は、
「そんな店、お高くとまっているような態度は、気に入らない」と思うでしょう。
しかし、決して、お高くとまっているわけではないのです。
たとえば、夫婦二人で、小料理屋を経営していたとします。
そして、毎日、平均して、50人ぐらいのお客が来るとします。
そうすると、50人分の材料を仕入れ、50人分の仕込みをするでしょう。
もっと、お客を受け入れれば儲かると思いますが、
夫婦二人で、お店を運営して行くには、体力的に、50人のお客が限界だと思うでしょう。
そこへ、その店が、たまたま雑誌で紹介されて、
大量のお客が押しかけたら、どうなるでしょうか。
あまりの忙しさに、料理の味が落ちるかもしれません。
あまりの忙しさに、体力的に、疲れ果ててしまうかもしれません。
疲れ果ててしまったら、よい仕込みができなくなるかもしれません。
固定客は、突然の混雑に、お店を敬遠するかもしれません。
もしかすると、お店がうるさくなったと言って、別の店に行ってしまうかもしれません。
さらに、困ったことに、雑誌で見て、押しかけてきた客は、
たいてい遠くからやってくるので、もう二度と、お店には、来ないでしょう。
こうしてみると、なじみの客相手に商売している方が、よかったと言えるでしょう。
そういうわけで、「一見客、お断り」となるのです。
小さな店が、急に、大きな店となったら、味が落ちてしまった。
そんな話を、よく聞きます。
大きな店にするには、たくさん従業員を雇う必要があります。
そうすると、結果的に、味は、人任せになってしまうでしょう。
店主が、すべての味付けを見ることはできないからです。
優秀な弟子が出現しない限り、店主の味を伝えることはできないでしょう。
大企業になることが、すべてよいとは限らないのです。
中小企業には中小企業の良さがあります。
そうした中小企業を社会的に守っていくことも必要です。
日本企業の99%は、中小企業と言われます。